国選弁護士は、「上告はしない。今度は未決参入もないし」と言っていた。この時は、上訴と上告の言葉の違いすらわからなかった。
ど素人が右左を考えても仕方ない。元勤務先の顧問弁護士にすぐに結果報告をした。どうするか、この二週間で決めなければならない。すぐに返事が来た。やれともやるなとも明示していない。もちろん、内心、意味なし、無駄ということは、お互いに百も承知だ。ただ、俺は一矢報いたい。俺の心境を察した返事だ。
極めて難しい。良い結果が出なくとも、それによって勾留が伸びても、よって出所がその分遅れても後悔しないというなら、やるのも一理という感じだ。
先生の言いたいことは、よくわかった。これが落としどころ、もう刑務所に行くしかないだろうね。ということだ。それでも本人は悩む。もしかしたらと思うわけだ。
10日が過ぎた。刑務官がドアを開けて「どうすんだ?」と聞いてきた。俺は「もうあきらめるしかないのでしょうね」と言った。そして、上告期限が過ぎた。
当然だが、未決勾留から刑確定者のフロアーに移った。再度、荷物検査をして、フロアーを移るわけだ。
交通(手紙を出せる人)の住所・名前を登録しろという。そんなの覚えていない。とりあえず、わかることだけ書いたら、刑務官が「てめーは、何書いてんだ」と言ってきた。二重線で抹消して、「訂正しました」と言って渡した。その刑務官は、「未決と違うからな」と冒頭に言った。まあ、わからないでもない。婦女暴行・殺人未遂・強盗・覚醒剤のオンパレードだから、なめられたらいけない。
こうして、有罪者として刑務所送りを待つことになる。この間、どの地域の刑務所良いか、知能テストのようなことをやらされる。刑務所を決める為の作業なのだろう。
鶴を折ったり、タバコの外箱みたいのを折ったり、ゼニにはならないであろう作業をやり、朝昼晩めしが配食され、食器を洗い、点呼して一日が終わる。
確定者のフロアーに移る時、1階で荷物検査があり、刑期の確認がある。刑務官が「令和5年6月〇日ね。すぐだよ。二週間くらいで移送になるからね。決まったら早いよ」と言っていた。